履き込むほどに完成する。1940s ENGINEER BOOTS 茶芯ホースバットを育てる愉しみ

1940年代のエンジニアブーツ、その無骨さを現代に。

エンジニアブーツという靴には、不思議な魅力がある。

決して華美ではない。むしろ装飾を削ぎ落とし、機能を優先して生まれた道具としての靴。それにもかかわらず、長い年月を経た今もなお、ファッションの世界で特別な存在感を放ち続けている。



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今回の一足は、そんな1940年代のエンジニアブーツをデザインベースに、クラシックな10インチハイトで構築されている。

第一印象は、やはり重厚。

しかし、実際に足を通してみると、その見た目から想像する印象とは少し違う。

しっかりとした革の存在感がありながら、足への馴染みは思いのほか早く、履き心地も軽やか。

ヴィンテージの雰囲気をただ再現するだけではなく、「今、実際に履くためのエンジニアブーツ」として考えられていることが伝わってくる。

主役は、MARYAMのホースバット。

このブーツを語るうえで外すことができないのが、アッパーに使用された革だ。

採用されているのは、イタリア・トスカーナ州のタンナー、MARYAM社製ホースバットレザー。

BUTT、つまり馬の臀部にあたる繊維密度の高い部位を、植物タンニンでじっくりと鞣した革である。

そして今回使用されているのは、茶色に染めた下地の上から黒で仕上げた、いわゆる「茶芯」。

新品の状態では黒々とした力強い表情を見せているが、この革の本当の面白さは、ここから始まる。


歩く。

屈む。

バイクに乗る。


日常の何気ない動作を繰り返すたび、甲には皺が刻まれ、擦れる場所から少しずつ下地の茶色が顔を覗かせていく。

黒一色だったブーツに濃淡が生まれ、皺の山には光が当たり、谷には深い影が落ちる。

数年後には、新品時とはまるで別物のような表情になっているはずだ。

「傷」さえも、この革の個性になる。

MARYAMのホースバットは、均一で無機質な革ではない。

革にはキズやトラ、血筋など、馬が生きていた証ともいえる表情が残されている。


一足ごとに違う。

左右ですら完全に同じではない。


しかし、それを欠点として消してしまうのではなく、天然皮革だからこそ生まれる個性として楽しむ。

そこに、この革を選ぶ面白さがある。

さらにバケッタ製法によって豊富なオイルを含ませているため、厚みのあるホースバットでありながら、履き始めから比較的足に馴染みやすい。


触れたときのしっとりとした質感。

履き込んだときに現れる艶。

そして茶芯が覗き始めたときのコントラスト。

時間そのものが、このブーツを完成させていく。

無骨なのに、シルエットは美しい。

エンジニアブーツは一歩間違えると、足元だけが必要以上に大きく見えてしまう。

しかし、この一足はそのバランスが非常にいい。


木型にはナローなラウンドトゥを採用。

エンジニアブーツらしいボリュームを残しながら、トゥを必要以上に膨らませず、全体をすっきりと見せている。

さらにシャフトもやや細身。

そこにヴィンテージのエンジニアブーツにも見られるライディングカットの履き口を組み合わせている。

足入れのしやすさという実用性を確保しながら、横から見たときのラインも美しい。


ワイドデニムの裾から覗かせてもいい。

細身のパンツでブーツ全体を見せてもいい。

レザーパンツなら、言うまでもない。


無骨なワークブーツでありながら、スタイリングによって品のある見せ方ができる。

そこが、このブーツの大きな魅力だと思う。

長く履くことを前提にした、足元のつくり。

製法には、グッドイヤーウェルテッド製法を採用している。

堅牢で、修理をしながら長く履き続けることができる。

そもそも経年変化を楽しむブーツなのだから、数年履いて終わりでは意味がない。

アッパーが育ち、ようやく格好良くなってきた頃に、ソールを交換してまた履く。

そうやって10年、その先へと付き合っていく。

そんな使い方が似合う靴だ。


ミッドソールには、オイルをたっぷりと含ませたベンズレザーを採用。

アウトソールとヒールにはDr.Sole製のセパレートソールを組み合わせている。

屈曲性、耐久性、そしてグリップ力。

ヴィンテージらしいルックスを崩すことなく、現代の日常でしっかり履くための実用性も考えられている。

細部を見れば、さらに面白い。

良いブーツというものは、離れて見たときだけでなく、近づいて見たときにも楽しめる。

履き口には補強革とステッチ。

バックステイには、脱ぎ履きを助けるプルループ。

そしてバックルには、ニッケル製のローラータイプを採用している。

革だけではなく、金属もまた時間とともに変化していく。

新品時の均一な輝きが少しずつ落ち着き、細かな傷やくすみが加わることで、革の経年変化と馴染んでいく。

ソールエッジはブラックで統一。

黒のエッジ、黒のアッパー、その奥から徐々に覗き始める茶芯。

履き込んだ数年後を想像すると、非常に楽しみな組み合わせだ。

新品より、履き込んだ姿を見てみたい。

このブーツは、新品の状態でも十分に格好良い。

ただ、本当に見てみたいのは3年後、5年後、その先の姿だ。


甲に深く刻まれた皺。

擦れたトゥ。

シャフトに入ったクセ。

ところどころに現れた茶芯。

鈍く光るニッケルバックル。


ソールを一度交換した頃には、同じモデルであっても一足一足まったく違う表情になっているだろう。

革製品の魅力とは、完成されたものを買うことだけではない。


自分で使い、自分で育て、その時間まで含めて完成させていくこと。


1940年代のエンジニアブーツが持っていた無骨な佇まい。

イタリアのホースバットが生み出す豊かな表情。

そして、現代の日常で履き続けるためのつくり。

すべてがひとつになったこのブーツは、単なるヴィンテージの再現ではない。

履いたその日から少しずつ変化し、何年もかけてその人だけの一足になっていく。


新品が一番格好良いのではなく、履き込んだ先にこそ完成形がある。


そんな言葉がよく似合うエンジニアブーツだ。